2008年2月8日金曜日

臓器を作るの最先端


 京都大学の山中伸弥教授らが作製したiPS細胞の話題が世に広まり、再生医療というものがぐっと身近になってきた感があるが、そうはいっても細胞を撒きさえすれば臓器ができるかというとそんなことはない。それぞれの臓器は無数の細胞が規則正しく集まって特徴的な組織構築を形成しており、さまざまな役割を担った細胞が極めて整然と並んでいる。

 どうやって(人工的に)組織を作製するか、ということを研究する分野はtissue engineering(組織工学)と呼ばれており、組織を形成する細胞がきちんとあるべき姿に並ぶよう、人工的に細胞外基質の「籠」を作製しその上に細胞を撒いて並ばせるというようなことが試みられている。私はこの分野には門外漢であるが、聞くだけでも難しそうな話である。人工合成された化合物はそもそも生体にとって異物であり、細胞は生着しにくい。生体材料を使うというのが一つの解決策である。いずれにしても、例えば心臓や肺、肝臓のような大きな臓器をどうやって作るか?顕微鏡レベルでようやく見える緻密な組織構築を、どうやって人間の手で組み立てるか?

 そんな感じで「タイヘンそうだなー」ぐらいに構えていた私は、Nature Medicine2月号に掲載されたある論文をみてひっくり返った。なんと、死んだ個体から取り出した心臓を界面活性剤などで処理し、細胞成分をすべて除去して細胞外基質の「籠」を作り、その上に培養細胞を撒いて心臓を「作り直」してしまったのだ。私は知らなかったのだが、decellularizationといって以前から存在したテクニックらしい。論文の著者らは改良を加えた方法で、死体心の細胞成分を完全に取り除くことに成功した。とのこと。

 その手があったかー!目からウロコな論文はしばしば目にするが、久々に「頭にトンカチ」レベルの論文を見つけた。

 ラットの死体心を利用して作り直した心臓は、拍出量としてはラット成体の心臓の2%程度と、機能としてはかなり見劣りするが、何より「作るのが難しけりゃ生き物が作ったものを再利用すればえぇ」という、コロンブスの卵的な発想の転換に私は感激したのだった。

 この感動を誰かに伝えねばと、近くにいたラボのテクニシャン(実験補助員)に話を振ってみると、「いや~んきもちわる~い」だそうだ。まあ、それが普通の感覚なんでしょうな・・・。

参考文献・WEBサイト
九州大学高度先端医療開発センター http://www.camit.org/japanese/studies_01a.html
Nature Medicine vol.14, No.2: p213-, 2008 Feb.

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