2018年7月15日日曜日

Aging scienceに関する初期考察

日本のみならず多くの先進国で喫緊の課題となっているのが老化とそれに伴う疾患群の問題である。科学技術振興機構から最近出された報告書によれば、老化に関連する「組織・臓器の構造・機能変性を伴う疾患群」の予防・治療技術の確立と全世界への普及展開が非常に重要と提唱されている。最近のトップダウン的な研究領域の設定を見ても、生体リモデリングや個体機能低下を題材にした研究領域が立て続けにセッティングされている。

ということで、ちょっとこのへんの分野をかじってみた。

そもそもAgingの本質はなんだろうか?老化の速さや程度は種によってある程度決まっているため、遺伝学的な要素は大きそうである。
古くから活性酸素や炎症、代謝状態変化などの関与が提唱されていたが、個人的にエポックメイキングな仕事だと思ったのは、老化細胞の除去によるaging phenotypeの改善 [Baker et al. Nature 2011 479:232-, Nature 2016 530: 184-] の仕事である。非常にcool!
とすると、生体内でいつどこでなぜ老化細胞ができてくるのか、という問いは老化の本質に非常に近いように思える。

寿命と老化の関係も、いまだ議論が続いている点のようだ。そもそも同じかどうかもよくわかっていない。カロリー制限とラパマイシンは、現在知られているほぼ唯一と言って良い、種を選ばず寿命を伸ばす摂動である。しかもこの2つはATP合成経路を介してどうやら繋がっているらしい [Chin et al. Nature 2014 510:397-]。ラパマイシンのターゲットであるTORは細胞老化にも重要と [Weichhart. Gerontology 2018 64:127-]。ということで、全く独立した事象ではなく、(直感的にもそうであるように)ある程度関連の深い事象であることは間違いなさそうである。

どうやら主だった役者は揃っているようにも思えるが、では非老化→老化の過程で何が起こっているのか?正常の個体老化過程において、何がkey factorとなっているのか?これを紐解くのは容易ではない。どこから老化が起こってくるか誰も見たことがないし、人工的に老化を促進するようなモデルではいわば無理やり老化細胞を作っているような実験系になるため、正常の老化過程を反映しているとはいい難い。また、様々な分子への摂動を行ったとしても、それが老化細胞の状態維持に重要なのか、非老化→老化過程に重要なのか、これを区別することは難しい。


生体内で極めて初期の「老化になりかけ」の細胞を見つけ、どのようなpathの変化が非老化→老化過程で起こっているか、これを解明することが最も重要な点だと思える。