2008年2月16日土曜日

一流から入る

 ついに「QuietComfort」の購入に踏み切った。BOSEが直販限定で発売している、ノイズキャンセリングヘッドホンの先駆けとなった製品である。すこぶる評判がいいので以前から購入を思案していたのだが、なにせ高価。すでに他社の類似品を使用していたこともあり、なかなか手を出せずにいた。しかし、新聞広告で見つけた「無金利分割払い」「30日間返品保障」の2つのキーワードが決定打となった。今使っているのと大して変わらないだろうとは思うけど、とりあえず取り寄せて、もしイマイチなら返品すればいいか。万が一(笑)、買う羽目になっても、月々数千円なら何とかなる。
 
 なにせラボの中は騒音だらけである。研究者達は駆けずり回ったり熱い議論を交わしたりすることに忙しいし、機械達はうなりを上げ、試薬やサンプルを揺すったり超高速で回したりバナナでくぎが打てるほどカチンコチンに冷やしたりするのに余念がない。送電設備の定期点検で停電になったときの、人も機械も動いていない部屋の中の静かなこと!これだけうるさいと、こちらの集中力や熟考を結構な勢いで妨げてくれる。安物とはいえ、これまで使っていたヘッドホンもそれなりの遮音効果があり、いざというときには頼もしい“耳栓”だったのだ。

 届いた製品を開封し、電池を少しだけ充電して、早速試してみた。装着してスイッチを入れた直後、私は決定を下した。「いままでのヘッドホン、もうイラネ」

 まず装着感からしてまるで違う。適度な重量感と安定性で頭に乗っかるボディ。ソフトかつ十分に密着性を保って耳を覆うイヤーパッド。スイッチを入れたとたんに広がる、圧倒的な静寂。名の通ったメーカーだけあって、音楽や語学を日常的に聴くのには十分な音質。やっぱりいいものは違う、と芯から脱帽した。そばにいる人たちに早速“耳栓”させてみた。皆同じ顔をする。目を見開き、口をO字型に開いて、思わずこう言ってしまうのだ。「おおおぉぉぉおおおー??!!すげー!!」

 私の座右の銘の一つ、「その道を知るには一流から入る」である。芸術でも科学でも何でもいいが、ボトムアップで動くと何処が一番先なのか見えてこない。多くは自分の立ち位置に満足するか見失うかして、自己研鑽と向上心を持続できない。逆に「どのくらいが一流か」を初めに知ってしまうと、一番先から自分の現在の立ち位置が俯瞰でき、目標設定や相対評価が可能になる。ボトムアップアプローチを取れる(というより取らざるを得ない)のは、その先っぽにいる「一流」の人たちだけだ。なぜなら、彼らには「自分より先」がないため、彼ら自身が自ら先を見据えて目指していくからだ。

大学時代にクラシックギターを習っていたころは、教室を運営している会社の社長さんが計らってくれて、世界でもトップクラスの演奏家達と何度も交流する機会を得たし、研究者になってからも10人以上のノーベル賞受賞者を始め、超一流と評価される科学者たちと出会う機会を多く求めてきた。同世代の一流どころと交流を深めることもできた。それがあるからこそ、自分はまだまだ遠く及ばないと、自分を引っ張り挙げようとしてもがくことができる。

 仕事以外でも、どんなことにもこのスタンスは有効である。最近父親が(どこからそんなお金が出たのか知らないが)車をレクサスに変えた。あるとき半日以上かかる距離を家族で動いたことがあったが、本当にびっくりしたのは、この車の「反則的な乗り心地のよさ」であった。また、昨年は1週間の長期休暇という大変稀有な機会に恵まれ、ドバイに旅行してリッツ・カールトンに宿泊する機会を得た。設備、スタッフの質の高さはもちろん、花びらを敷き詰めてデコレートされたロビーの噴水は毎日図柄が変わり、部屋に運ばれるフルーツには一つ一つタキシード姿が描かれたチョコが絡めてある。最高峰のサービスの一端を存分に堪能することができた。絵だって音楽だって、いいものを沢山見たり聞いたりする事で感性が磨かれ、目や耳が肥えてくるのだ。先っぽを知ると、自分なりのモノサシをもって評価や価値判断をすることが可能になる。このブログでも科学的な話題については、最先端の領域に触れていただきたいとの思いから、専門的な用語をあえて使用することにしている。

 一流は本質である。本質を究め、それを実践できているからこそ一流であることができる。金銭的負担を伴っても、やっぱり「一流」をよく知るべきだな、と、新しいヘッドホンでいろいろ試し聞きしながら改めて思った次第であった。

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